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「ソフト会社の心臓」という本です。この本は、5部構成になっています。1部はソフトウェア請負開発。2部はパッケージ開発。3部は資金調達。4部は様々な応用。5部は金持ちソフト会社になるためにはどうしたらよいかという本書のまとめです。

　1998年9月に有限会社を立ち上げたのですが、元々私は技術者だったので、最初の2年くらいは個人事業主に毛が生えたようなものだったわけです。それから徐々に会社を大きくして株主会社にしたのは2001年です。
私自身、技術者から経営者に変わるという経験をしたのですが、経営のノウハウを身に着け、お金と人についてきちんとした考え方を持って経営に入ることができるかどうかが、技術者と経営者との分かれ道です。技術者出身の社長の9割以上が、経営者に変われないというのが現状だと思います。

　技術者と経営者の分れ目の線を越えられるかどうかが大事なんですね。その線を越えるための本が今回の「ソフト会社の心臓」なのです。

　ITサービス事業を基幹にして、製品開発と人材コンサルティング。この3つの事業部で事業展開しています。

　ITサービス事業部は、ネットワークのコンサルティング・設計・構築・運用などのネットワークに関する全ての業務を担当する「ネットワーク・サーバグループ」と、客先に常駐しWEBシステム開発を担当する「オンサイト開発グループ」の二つのグループから成り立っています。

　製品開発部では、自社製品開発と社内持ち帰り開発のほかに、社内技術者研修も担当しています。現在開発している自社製品は、ソフト会社に特化した人事管理＆営業支援システムです。

　そして、人材コンサルティング事業部では、企業の採用業務の一括請負を行っています。現在、採用業務に関しては、人事のコストや採用媒体のコストが非常に高くなっています。特に、短期間に大量の社員を採用する外資系企業では人集めが非常に大変になっているんですね。弊社では現在、何社かの外資系メーカーから採用業務全体を請負っています。

　私はもともと、40歳前には起業しようと思っていました。なおかつ、1990年代にWEBが出てきたとき、私はコレだ、と思った。起業するならばWEBでやろうと思ったのです。

　1998年時点でWEBに特化したソフト会社はほとんどありませんでした。あるとしたらソフト会社というよりも零細なホームページ制作会社でした。今では想像しづらいでしょうが、1998年当時WEBアプリケーション開発の仕事はほとんどありませんでした。日本でJavaサーブレットによるシステム構築例は数えるほどでしたから。

　そのような状況で私がなぜWEBに注目したのかと言うと、私は文書が好きだったんですね。文書とは何かというと、社会的な意味の世界なのです。人間的な意味の世界です。それを、従来は紙のメディアが担っていたわけですが、これからの時代は文書とインターネットとが融合する。つまり、意味の世界とシステムの世界が融合したのがWEBであるというのが、私の捉え方でした。それまでのシステムが出力としていたのは帳票です。それがWEBにおいては通常の思想や感情やニュースを表現できる文書が出力となる。そこに無限の可能性があると感じました。弊社は、創業当時から、人間と技術の両方に対し強烈な興味を持った会社だったのです。

　そして、私の読み通り、実際に、WEB系の需要がどんどんふくらんでいったのです。

　中小企業の成長戦略の基本は「需要を見つけて専門化する」です。例えば、私は客先常駐作業も肯定します。そこに需要があるからです。しかし、そこで多くのソフト会社がやってしまうことは、中間だけに入って、自社では採用せず、また自社で人材を育てることもせずに、ほかの協力会社から調達して、営業力だけで事業を展開することです。大手のソフト会社はほとんどそうです。

　弊社の場合は、最初から、協力会社は使わない。中間になるだけの会社にはならない。あくまでも人を育てる。という方針でやってきました。未経験者を育てることは非常にコストがかかります。未経験者を採用して半年ほど研修をしたうえで、一方では、請負開発を社内でやります。ただ、社内持ち帰り案件というのは常時あるわけではないので、持ち帰り作業は3割くらいにして、7割は常駐作業にする。しかし、常駐作業はあくまでも自社の社員を使うのが弊社のポリシーです。そして、常駐している技術者に対しても教育専任者が常時、個別にスキルチェックをし、技術者としてのロードマップを提供していきます。

　人材コンサルティング事業も、需要を見つけて専門化した結果生まれた独自サービスです。通常のソフト会社は手を出さない領域ですが、人を採用し教育する過程で得たノウハウが生かされていますし、創業当時から持っている「人間と技術の両方に対する強烈な興味」とも関連しています。

　弊社の特長は、研修担当者は専任者だということです。一人の専任技術者が、常時3名くらいの未経験者を研修しています。その研修は3ヶ月〜半年くらい続きます。ですから、専任研修担当者と未経験者のコストがかかるわけですが、弊社ではあえてそれをやっています。

　会社の規模としては、現在のスタイルで3倍にすることは可能なので、それを実現するつもりですが、規模を拡大することがすべての目的ではないのです。あくまでも、人を育てていくことと、独自製品やサービスを作り出して行くことが目標です。そして、その根底には、「人間と技術の両方に対する強烈な興味」があります。

　本を書くことは私にとってはライフワーク。２年に1冊は出していきたいと思っています。

　ある程度、会社の規模が大きくなり、また私も年齢を重ねてくると、今後は、後継の人々や若い人たちに何を伝えていくかというスタンスが重要になります。それは、技術教育というものだけでなく、どうやって人を育てるかという人間教育の領域になっていきます。

　今回の「ソフト会社の心臓」という本は、会社の会計に関するノウハウ本ですが、後継者の育成とか、若者の教育とかとなっていくと、もっと奥深く幅広いテーマになっていく。そういうテーマの本を書くことも、今後の20年、30年のライフワークになっていくと思います。