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2022年01月31日 11時 [医療・健康/研究・調査報告]

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター AMR臨床リファレンスセンター

令和時代のニキビ治療 〜根本から治せるようになった一方で、耐性菌の問題も〜

 AMR臨床リファレンスセンターは、ニキビ治療の観点から薬剤耐性問題を考えるため、医療法人明和病院皮膚科部長・にきびセンター長の黒川一郎先生にお話を伺いました。 殆どの人が一度は悩む身近なニキビは薬剤耐性とどのような関係性があるのでしょうか。また、近年、ニキビ治療を取り巻く状況はどう変わっているのでしょう。


 ニキビは正式には「尋常性(じんじょうせい)ざ瘡」とよばれる、れっきとした皮膚疾患。思春期に多く発症し、「過剰な皮脂」「毛穴のつまり(面皰(めんぽう)」「アクネ菌の増殖による炎症」で悪化します。かつては炎症を抑える目的で抗菌薬中心の治療が行われていましたが、現在では面皰を改善する外用剤が複数そろい、早期かつ根本から治すことが可能になっています。しかし皮膚科受診率は約16%(*1)と低く、自己流のケアで悪化させる人もまだまだ多いのが現状です。また近年、抗菌薬に耐性をもつアクネ菌が増えており、その背景にはニキビ治療だけでなく、他科における抗菌薬治療の影響もあるのではないかといわれています。ニキビ治療と薬剤耐性菌の関係を紹介します。
(*1) 谷崎英昭ほか:日皮会誌130:1811, 2020


[資料: https://files.value-press.com/czMjYXJ0aWNsZSM3NjQxMyMyODkxODMjNzY0MTNfUHRoQnVBV3JneC5qcGc.jpg ]
医療法人明和病院 皮膚科部長・にきびセンター長
黒川 一郎(くろかわ いちろう) 先生

1983年関西医科大学卒業。済生会中津病院、三重大学などを経て、2011年より現職。日本皮膚科学会「尋常性ざ瘡治療ガイドライン」作成委員。 研修医時代から一貫してニキビの研究・治療に取り組み、同院にきびセンターには軽症から重症、難治性ざ瘡関連疾患までさまざまな患者が訪れる。


《サマリー》

1. ニキビの始まりは毛穴のつまり(面皰)、炎症が始まる前にできるだけ早く治療を開始
2. 面皰に効く外用剤の登場で、早期からの根本治療が可能に
3. 炎症がひどいニキビでは外用・内服の抗菌薬も使われる
4. マクロライド系抗菌薬に耐性のアクネ菌が増えている
5. 抗菌薬治療は「急性炎症期のみ」「中等症以上」「最長3カ月」が原則


[資料: https://files.value-press.com/czMjYXJ0aWNsZSM3NjQxMyMyODkxODMjNzY0MTNfcFNhdWRSQlhFWC5KUEc.JPG ]
ニキビはれっきとした病気、早めの治療で悪化を防ぐ
 ニキビの始まりは「面皰(めんぽう)」とよばれる毛穴のつまり。過剰な皮脂や古い角質が毛穴にたまった状態です。最初は目に見えない小さなつまり(微小面皰)だったものが、黒ニキビ(毛穴が開いた面皰)や白ニキビ(毛穴が閉じた面皰)になり、毛穴の中でアクネ菌が増殖すると、今度は炎症が起こってきます。アクネ菌は皮膚の常在菌ですが、酸素を嫌う嫌気性菌で皮脂を好むため、増えた皮脂を餌に毛穴の奥深くで増殖しやすいのです。炎症が起こったニキビははれて赤くなり(赤ニキビ)、さらに炎症が進むと化膿して(黄ニキビ)、人によってはニキビ跡が残ることも。「たかがニキビ」と放置せず、早めに治療することが大切です。

面皰に有効な薬が登場、大きく変わったニキビ治療
 2000年代に入り、日本のニキビ治療は大きく変わりました。2008年にアダパレン、2015年に過酸化ベンゾイル(BPO)という「面皰に効く」外用剤が登場したのです。それまでの治療は炎症を起こしたニキビに対するもので、主に抗菌薬が使われていました。抗菌薬はアクネ菌の増殖は抑えるものの、面皰には効きません。炎症が治まっても面皰は残るので、再発しやすいことが問題でした。
 これに対し、アダパレンやBPOはニキビの大元ともいえる面皰に作用して、毛穴のつまりを改善します。炎症を起こしたニキビはもちろん、面皰だけのニキビも治療でき、「これらの外用剤だけで改善する人も多い」と黒川先生。BPOは殺菌作用もあることから、赤ニキビや黄ニキビにはBPOが、白ニキビや黒ニキビにはアダパレンが主に使われます。現在では抗菌薬とBPOの配合剤、アダパレンとBPOの配合剤もそろい、さらに選択肢が増えました。黒川先生は「今はいい薬があるので、自分で悩まずに皮膚科を受診してほしい」と呼びかけています。

炎症がひどいニキビでは抗菌薬も併用
 ニキビは感染症ではありませんが、炎症にアクネ菌が密接にかかわっていることからアダパレンやBPOに併用する形で、外用や内服の抗菌薬を用いる場合もあります。よく使われるのは外用ではクリンダマイシン、内服ではドキシサイクリンやミノサイクリンなどです。いずれも対象は炎症を起こしたニキビで、かつ顔半分に6個以上ある場合(中等症以上)です。


[資料: https://files.value-press.com/czMjYXJ0aWNsZSM3NjQxMyMyODkxODMjNzY0MTNfSkFTWkx1c2pPay5wbmc.png ]
薬剤耐性アクネ菌が増えている 〜他科での内服抗菌薬治療も影響か〜
 抗菌薬が使われているとなると、気になるのが耐性菌です。実際日本でも、2010年頃から薬剤耐性アクネ菌は増加傾向にあります。例えば、虎の門病院の外来受診ニキビ患者における調査(野口ら*2)では、ニキビ治療によく使われるクリンダマイシンの耐性率は、2013年では37.5%であったのに対し、2018年は56.5%と増加傾向であると思われます。また、同調査でクリンダマイシンと交差耐性を示すクラリスロマイシンの耐性率は2013年で46.9%、2018年では60.9%でした(グラフ)。*2 Aoki S, et al: J Dermatology 48:1365-1371, 2021
 しかし、クリンダマイシンは外用で使われ、外用剤は面皰に薬剤が高濃度に達するため耐性菌は出にくいとされています。またクラリスロマイシンは内服薬ですが、ニキビ治療にはあまり使われていません。一方、内服でよく使われるドキシサイクリン耐性率は2018年時点で5%以下でした。これはどういうことなのでしょうか。

 黒川先生は1つの可能性として、「他科における内服抗菌薬による治療」を挙げています。マクロライド系のクラリスロマイシンはクリンダマイシンと一部交差耐性を示します。マクロライド系の内服薬はいわゆる「かぜ」の治療で多く処方され、耐性菌が問題となっています。その影響がアクネ菌にも及んでいるのではないか、というわけです。一方で「ドキシサイクリンなどテトラサイクリン系は、アクネ菌に対しては耐性を作りにくい性質がある」と黒川先生。いずれにしても、耐性菌は1つの診療科だけの問題ではなく、医療全体で考える必要があるといえそうです。


[資料: https://files.value-press.com/czMjYXJ0aWNsZSM3NjQxMyMyODkxODMjNzY0MTNfQlN5aHhzc2tRRC5KUEc.JPG ]
ガイドラインに沿った治療で耐性菌を防ぐ
 こうした状況をふまえ日本皮膚科学会は、2008年に作成したわが国初のニキビ治療ガイドラインを2017年に改訂し、抗菌薬の使い方についても指針をまとめました。 改訂版ではニキビ治療を「急性炎症期」と「維持期」の2つに分け、抗菌薬治療は原則「急性炎症期のみ」「対象は中等症以上」「投与期間は長くて3カ月」としています。黒川先生はさらに「同じ系統の内服薬と外用薬を同時に使わないことも重要」と指摘します。例えば外用と内服の両方でマクロライド系を使えば、耐性化しやすくなる恐れがあるためです。
 耐性アクネ菌が増えることはニキビ治療だけでなく、他の皮膚常在菌の耐性化や皮膚科以外の感染症治療にも影響しかねません。皮膚科専門医にはガイドラインをベースに、抗菌薬を適正に用いたニキビ治療が求められます。

AMR臨床リファレンスセンターとは
 「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」に基づく取り組みを推進する目的で、厚生労働省委託事業として2017年に設立。国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)に拠点を置き、薬剤耐性や抗菌薬適正使用に関する情報収集・分析、啓発活動を行っています。 薬剤耐性とは、感染症の原因となる細菌に、抗菌薬(抗生物質)が効かなかったり効きにくくなることです。抗菌薬に耐性を持った病原菌を「薬剤耐性菌」と呼び、抗菌薬の不適切な使用などによって耐性菌が発生し、人から人、環境へと広がっていきます。このまま何も対策をとらなければ、2050年までにAMRによって世界で年1000万人が死亡する事態となると言われています。*
https://news.un.org/en/story/2019/04/1037471 No Time to Wait: Securing the future from drug-resistant infections Report to the Secretary-General of the United Nations April 2019


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